里子たちをあずかっている期間も課題は山積であろう。でも、いつかはやって来る〝措置解除〟の時。その時に備えて私たちは何ができるのだろうか。そして、その後の子どもたちにどのように関わって行けば良いのだろうか。
やがて来る〝その時〟に備えて、幾人も里子を世に送り出されたSさんにお話しをうかがった。
―――今日は貴重な時間を設けてくださりありがとうございます。今まで4人のお子さんたちを送り出されたとのことですが、その時の事などからうかがえるでしょうか。
ひとりの子は高校生の時から受託し、卒業後は他県の企業に就職を機に措置解除。割とすんなり自立したケースだと思う。ただ、アパートを借りる際に里親が保証人では断られる物件もあった。注意したいところです。
他の子のケースですが、実親との関係が完全に切れてしまっている子であったので、私が成年後見制度の「補佐人」としての立場を得たのだが、この肩書きがあると、住居の賃貸契約をはじめ諸契約が無難に進みました。こんな方法もあるのだと知っておくと良いと思います。
全国社会福祉協議会では「身元保証人事業」があって、上記のような場合の保証人になってくれる制度があります。里親さんだけでかかえ込まないで、相談すると良いでしょうね。
―――他のお子さんの場合はどうでしたか。
もうひとりの子も高校生の時から我が家に来ました。高校を卒業後は返済型の奨学金を借りて短大に進学し、2年間の措置延長をしました。卒業後は県内に就職を契機にアパート暮らしを始めました。この子の場合は、奨学金の返済が気になっていたので、アパート暮らし後も、奨学金の貸主には住所変更を届けず里親宅のままにしておきました。返済が滞った時の督促状が私の所に届くようにするためでした。案の定、滞ることもあり、その都度、様々な対応をしてきました。
就職して給与を得るようになったとはいえ、お金の使い方は要注意だと実感。給与の8割程度で生活予算を組むように一緒に考えるなどして乗り越えてきました。
―――措置解除後はそこまで関わらなくても、法的には良いわけなのですが、簡単には割り切れませんね。他の事業所などとの連携も必要では?
そうなんですよ。中学生であずかった子の場合ですが、彼はすでに養育手帳(知的障害のある方へ交付される障害者手帳)を取得していたので、高等特別支援学校を卒業後は障がい者雇用で就職しました。措置延長をして自宅から職場に通勤。でも、本人としては、ひとり暮らしをしたいんですよね。そこで市営住宅を借りることができ、あこがれのひとり暮らしをスタート。ところがしばらくすると、頭痛等で体調を崩し欠勤気味になり長期休暇か解雇かという事態になりました。
―――思いの外ひとり暮らしは大変なんじゃないですか。自分で食事作り、洗濯や掃除。里親さん宅ではやってもらっていたことですものね。
全くその通りなんですね。診察結果もストレスから来る不調でしょうと。そこで、今は自宅通勤に戻しました。いつでもひとり暮らしを再開できるように市営住宅も解約していません。
―――一足飛びに自立とは行かない中、里親さんが寄り添うことはお子さんにとって心強いです。
この子の場合は幼い時から福祉施設との関わりが続いていて、卒業後も連携を受けながら試行錯誤してここまで来れたと思います。〝自立とはいえ孤立しないように〟障がい者就労支援事業所とか障がい者自立支援事業所などとの連携は大切だと思いますよ。
私の場合は、小学生の時から受託している子なんですがグレーゾーンでした。支援学級に入れた方が良いか否かについて、児童相談所や小学校などで適切な判断ができず、結局、普通学級で学んだんです。
勉強は不得意のままなのですが、のんびりとした性格の子に育って高校にまで行ったのですが、高校3年生になってようやく障がいの判定を受け養育手帳を取得。もっと早くしてあげれば良かったと後悔も残るのですが、できる限りのことをしてあげたいと思っています。
学習の遅れがあるにもかかわらず、穏やかなお子に育ってこられたのは、里親さんが暖かく見守ってこられたからなんですね。大変でしたよね。遅かったかも知れませんが、でも現段階で手帳を取得できたのは良かったです。これを機に福祉施設との連携をつけながら、卒業後につなげると良いですね。
そうなんですよ。就職も内定しているのですが、自宅からは通勤は難しいので、近くにアパートを借りようかと考えました。でも、とてもひとり暮らしは無理だと思い、グループホームを探し始めました。結局、障がい者のグループホームも自立支援事業所などの福祉施設の運営であることが分かり、そちらの事業所と連絡を取りながら東奔西走中です。
障がいのあるお子さんたちの措置解除後の生活は福祉事業所との関わりが不可欠。お探しのグループホームも、募集の空きを見つけるのが難しかったり、あっても就職先との距離や交通の便に無理があったりと、悩ましいです。
法律上18歳で養育里親の措置は解除になるのですが、20歳まで延長も認められ、その間は児童相談所が関与します。その後は22歳まで自立支援事業として県の支援が受けられ、居住費支援として毎月約月額9万円支給されます。
ところが、令和6年度からこの制度の年齢制限が撤廃されます。将来を見据えてそのような制度も知っておいていただきたいことです。
―――今日は貴重な体験談を聞かせてくださりありがとうございました。私は現在、ふたりの小学生をあずかっているのですが、高校卒業後の青写真を少し描くことができたかなと思います。
どうぞ、読者の皆さん。悩みをかかえ込まないで、知り合いの里親さんや事務局に相談をしてみてください。結構いろんな道があるんだなと知らされます。